おしどり贈与の特例を使うと、夫婦間で最大2,000万円までの贈与が非課税になります。
自宅を配偶者に贈与しておくことで、将来の相続時に自分の財産を減らすことができるので、メリットが高いように感じますが、使い方を間違えると逆に損をすることにも。
損をしないためには、細かい税金の計算や条件を理解する必要があります。
こちらでは、おしどり贈与とはどのようなものなのか、メリット・デメリットと損をしない使い方について詳しく解説していきます。
おしどり贈与とは
「おしどり贈与」とは、夫婦それぞれが単独で所有している財産を贈与する際に認められている特例の一つです。
正式には「贈与税の配偶者控除」とも呼ばれます。(国税庁:No.4452夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除)
この制度では、夫婦が居住用の不動産やその取得資金を贈与する場合、最大で2,000万円まで贈与税の控除が受けられます。
さらに、基礎控除額である110万円と組み合わせることで、最大2,110万円までの贈与が可能です。
- 最大で2,000万円まで贈与税の控除が受けられる
- 基礎控除額110万円と組み合わせて最大2,110万円までの贈与が可能
おしどり贈与を利用できる5つの条件
おしどり贈与の優遇措置を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 夫婦の婚姻期間が20年以上であること
- 配偶者から贈与される財産が、居住用不動産であるか、または居住用不動産の取得に関する金銭であること
- 国内にある居住用不動産であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与によって取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に実際に住んでおり、今後も引き続き居住する見込みがあること
- 同じ配偶者から一度もおしどり贈与を受けていないこと
夫婦の婚姻期間が20年以上
おしどり贈与は、おしどり贈与は、長年連れ添った配偶者への贈与を税制上優遇する制度のため、婚姻期間が20年以上であることが条件となります。
婚姻期間
婚姻期間の計算は、婚姻の届出をした日から贈与を受けた日までの期間で計算し、1年未満の端数は含みません。
例えば、婚姻期間が19年10か月の場合は、1年未満は切り捨てで、婚姻期間は19年となり、おしどり贈与は適用されません。
再婚した場合
一度離婚して再婚した場合は、離婚期間は含まず、婚姻関係にあった期間を合算できます。
例えば、結婚した10年後に離婚して、その3年後に再婚して12年経った場合を考えると、最初に結婚してから25年経過していますが、婚姻期間は
となり、おしどり贈与の条件を満たしています。
内縁の妻
婚姻期間は戸籍上の婚姻期間に限られており、法律上の婚姻関係が必要です。
そのため、法律上の婚姻関係が必要となり、20年以上寄り添った内縁の妻は、おしどり贈与を受けることができません。
よって、内縁関係や事実婚は利用できませんのでご注意ください。
- 婚姻期間は、婚姻の届出をした日から贈与を受けた日までの期間
- 婚姻期間の1年未満の部分は、端数を含まず切り捨て
- 離婚して再婚した場合は、婚姻期間を合算できる
- 内縁関係や事実婚は利用できない
贈与される財産が居住用不動産または住宅資金
2つ目の条件は、譲渡される財産についてで、以下の2つに分類されます。
- 配偶者から贈与された居住用不動産
- 配偶者から贈与された居住用不動産の取得資金
居住用不動産
「居住用不動産」とは、専ら居住の用に供する土地もしくは土地の上に存する権利または家屋のことを指します。
簡単に言えば、居住用の土地や家屋の贈与は対象となります。
ただし、居住用であることが条件ですので、別荘の土地・建物は対象外となります。
居住用不動産の取得資金
おしどり贈与は、不動産の贈与だけだと思われがちですが、実は、住宅資金の現金による贈与も可能です。
ただし、居住用不動産を取得するための資金のみが対象となります。
こちらについては、「知らないと使えない!現金でおしどり贈与を利用できるたった1つの条件とは?」で詳しくまとめていますので、ご確認ください。
こちらも居住用であることが条件ですので、別荘の購入資金は対象外となります。
このように、おしどり贈与の対象は、居住用の財産もしくは、その取得資金に限定されます。
自宅の土地や建物の場合は、登記事項証明書と戸籍の附票で居住用物件であることを証明する必要があり、金銭の贈与を受けた場合は、不動産の取得を登記事項証明書で明らかにしなければいけません。
国内にある居住用不動産
配偶者から贈与された財産が土地や家屋の場合、付随する条件として、国内にある居住用不動産が、おしどり贈与を受けられる条件となります。
例えば、海外で移住したいと考え、海外の不動産の購入資金におしどり贈与を利用しようと思っても、国内の不動産ではないので、対象外となります。
居住用不動産に実際に住む
4つ目の条件は、簡単にいえば、居住用不動産であることを証明するために、実際に住むことです。
実際に住んでいるかどうか見極めるために、期間が設けられており、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、対象の居住用不動産に住まなければいけません。
よって、税金対策のために居住用と偽って不動産を取得すると、偽装行為とみなされ処分を受けることも。
純粋に居住用として贈与したとしても、「贈与を受けた年の翌年3月15日まで」が条件となっていますので、新たに自宅を購入・新築した場合は、翌年3月15日までに引っ越しができるよう時期を考えて行動しましょう。
同じ配偶者から一度もおしどり贈与を受けていない
最後の条件は、同じ配偶者から一度もおしどり贈与を受けていないことです。
おそらくこの条件を満たしていない方は、ほぼいらっしゃらないと思いますが、おしどり贈与の適用条件として、同じ配偶者からは一度しかおしどり贈与を受けることができません。
一度、おしどり贈与を受けて、別の方と再婚した場合は、婚姻届けを出した日から20年後に再度おしどり贈与を受けることができます。
2回おしどり贈与を受けるには、最短でも40年の年月がかかりますので、そういう方はなかなかいらっしゃらないと思いますので、あまり気にしなくてよい条件です。
おしどり贈与のメリット
おしどり贈与のメリットには、以下が挙げられます。
- 財産を分散させて相続税を減らすことができる
- 配偶者の居住場所を確保できる
- 生前贈与加算で足し戻されることがない
- 自宅を手放す予定の場合に特別控除が使える
財産を分散させて相続税を減らすことができる
夫婦の財産の内、ほとんどの財産が一方の名義の場合は、おしどり贈与を利用して、財産を分散させることで相続税を減らすことができる。
例えば、夫名義の財産が多い場合、夫名義の財産はすべて相続財産となります。
相続税は財産の総額に税率をかけて課税額が算出されますので、相続財産が多ければ多いほど相続税が課税されます。
おしどり贈与を利用することで2,000万円の控除を受けられますので、生前におしどり贈与を利用すれば、相続税を安く抑えられる可能性が高いです。
しかし、おしどり贈与を利用する場合は、以下のような不動産の移転に関する費用が発生する可能性があります。
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 税理士などへの報酬料など
それらの費用が、相続税の節税額よりも超えた場合は、逆に損をすることになりますので、どれぐらい節税効果があるのかしっかりシミュレーショをしてから利用するようにしましょう。
配偶者の居住場所を確保できる
近年、相続で配偶者が居住用住宅を相続した場合、現金を相続できず生活苦になるケースなど問題になっていました。
2020年にようやく配偶者の生活の安定を目的とした「配偶者居住権」という制度ができ、その点が解消されましたが、おしどり贈与を利用することで同じようなメリットが生まれます。
相続で遺産分割を行う際は、その財産の金額にもとづいて相続人ごとの取り分を決めていきますが、おしどり贈与で配偶者の名義にしておけば、相続発生後も居住用住宅に住み続けることができるのがメリットの一つです。
生前贈与加算で足し戻されることがない
通常の贈与では、相続開始前3年以内に行われた贈与については、相続税の計算時に贈与した財産額を足す必要があります。
これは「生前贈与加算」と呼ばれるもので、せっかく節税のために生前贈与しても節税にならないことも。
しかし、以下の場合は生前贈与加算の対象外となっています。
- 贈与税の配偶者控除が適用された金額
- 住宅取得等資金のうち非課税の適用を受けた金額
- 教育資金一括贈与の非課税の適用を受けた金額
- 結婚や子育て資金の贈与の非課税の適用を受けた金額
- 相続時精算課税制度の利用
この中の「贈与税の配偶者控除が適用された金額」がおしどり贈与を利用したもので、たとえ3年以内に相続開始になったとしても、生前贈与加算で足し戻されることはありません。
自宅を手放す予定の場合に特別控除が使える
おしどり贈与で、配偶者に所有権が移りますが、将来的に家を売却する際に税金が安くなる可能性があります。
特に居住用自宅を売却する際には、所得税の特別控除があり、売却益から3,000万円を控除できる制度を利用すれば、納税額が安くなる可能性が高いです。
おしどり贈与のデメリット
おしどり贈与のデメリットには、以下が挙げられます。
- 不動産の移転に関する費用が発生する
- 贈与した財産が戻ってしまう可能性がある
不動産の移転に関する費用が発生する
不動産の移転に関する費用は先ほども説明したように、以下の費用がかかる可能性があります。
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 税理士などへの報酬料など
不動産そのものを贈与した場合は、「不動産取得税」「登録免許税」の両方の税金がかかります。
おしどり贈与の不動産取得税の計算方法については、「おしどり贈与の不動産取得税はいくら?」で詳しくまとめていますので、ご確認ください。
また、贈与ではなく相続によって不動産を取得した場合の不動産取得税はかからず、さらに登録免許税でも税率で優遇されています。
おしどり贈与で2,000万円控除できるメリットがありますが、トータルで考えたときに不動産の移転に関する費用の金額によっては、普通に相続したほうが節税だった場合もあります。
この費用を考慮するとおしどり贈与のメリットにもデメリットにもなり得ますので、しっかりシミュレーションしましょう。
贈与した財産が戻ってしまう可能性がある
おしどり贈与では、相手に不動産を贈与することができますが、おしどり贈与を受けた配偶者が先に亡くなってしまう場合も想定されます。
そうなると、贈与した財産は、また戻ってきてしまうことになり、おしどり贈与をした意味がなくなってしまいます。
特に相続人が配偶者しかいない場合は、よく考えて利用するようにしましょう。
おしどり贈与の適用ケース
ここまでおしどり贈与のメリット・デメリットを説明しましたが、おしどり贈与に向いているケースは以下の2ケースです。
- 相続税が確実に発生し、相続人が複数人いる場合
- 配偶者に確実に居住用住宅を与えたい場合
相続税が確実に発生し、相続人が複数人いる場合
相続税が確実に発生する場合は、財産を減らして節税する点でいえば、おしどり贈与は向いています。
ただし、相続人が配偶者のみとなると、先に亡くなった場合にまた財産が戻ってくるということにもなりかねません。
また、配偶者の場合は、相続税で「配偶者の税額軽減」を利用できますので、相続人が配偶者しかいない場合は、おしどり贈与を利用しないほうがよいでしょう。
配偶者に確実に居住用住宅を残したい場合
「配偶者居住権」という制度はありますが、配偶者に確実に居住用住宅を残したい場合は、おしどり贈与は有効です。
もちろん、遺言書で分割する財産を特定することはできますが、それでも確実に残しておきたい場合は、配偶者名義に変更しておく方が安心です。
そういった方には、おしどり贈与が向いています。
まとめ
おしどり贈与は、夫婦がお互いに居住用不動産を贈与する際に、最大2,000万円まで贈与税が非課税になる制度です。
相続税の節税や、配偶者の居住場所を確保するために有効な制度ですが、不動産の移転に関する費用が発生したり、贈与した財産が戻ってしまう可能性があるなどのデメリットもあります。
おしどり贈与を行うかどうかは、メリットとデメリットをよく検討した上で決めましょう。